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【映画ライターが分析】屈託ない笑顔が眩しい かけがえのない名優 三浦春馬の5つの才能

#三浦春馬
2021年7月5日 by
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映画ライターのSYOと申します。日本のドラマ・映画界に欠かせない俳優さんの「5つの魅力」を分析する本企画、第13回は特別編でお送りします。

今回取り上げさせていただくのは、三浦春馬さん。最後の出演ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』が、現在放送中です。このコラムでは本作を中心に、過去の出演作も交えつつ、三浦春馬さんの才能を5つのポイントでご紹介します。

本題に入る前に、1つだけ。三浦春馬さんが亡くなり、まだ2ヶ月。正直申し上げて、自分自身まだ整理がついていません。

あの日、ニュースを見たとき、自分はカフェでドリンクを注文したところでした。信じられない内容に、目を疑いました。僕の様子を心配した店員さんが「大丈夫ですか」と声をかけてくれて、説明しようと声に出したけど理解が追い付かなくて、感情だけが止まらず、その後もしばらく泣いていました。全部、鮮明に覚えています。今も、まだずっと痛い。

今回の企画も、編集者さんは何度も気遣ってくださいました。ものすごく悩みました。ただ、最終的に書かせていただくことを決めました。至らない部分、整っていない部分があるかと存じますが、今の正直な気持ちも込めて、書かせていただきます。ご容赦いただけますと幸いです。

引用: Hulu

1 観る者の心が華やぐ、屈託のない「笑顔」

ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』の第1話が始まり、三浦春馬さんが登場したとき、改めてその笑顔に心を奪われました。

本作で彼が演じているのは、金銭感覚がマヒした“浪費家”の御曹司。冒頭から散財を繰り返しっぱなしで迷惑かけまくりの超ルーズなキャラクターなのですが、まったく嫌味がありません。それどころか、可愛らしくてしょうがない。三浦さんが放つ人懐っこさ、笑顔から漂うマイナスイオンが、僕たちを癒し、和ませてくれるからでしょう。ですがこれ、説得力をもって演じるのは相当難しい。

たとえ脚本上で「お金遣いはだらしないけど、裏表がない好青年」とキャラ設定が書かれていたとしても、ただ演じるだけでは表面的なものにしかなりません。「役が上滑る」というやつです。テレビドラマの傾向として、どんな視聴者にも伝わるように「わかりやすい演技」が求められる部分はあるかと思いますが、それを高いレベルでこなしているからこそ、笑顔に“人柄”がにじむのでしょう。

特に今回、三浦春馬さんが演じた慶太は「噓がない」ことが必須条件。本物の笑顔を作り出すためには、ベースとなるキャラクターがちゃんと、いいヤツである必要があります。

視聴者にもわかりやすい=キャラをつかみやすいということは、演じる役者によって、役の思考回路がちゃんと組み立てられているということ。機械的に笑顔を浮かべるのではなく、そこに理由をきっちり付加する三浦春馬さんの演技、流石です。

余談ですが、映画『君に届け』での三浦春馬さんの笑顔も、とても素敵ですよね。彼を思い返すとき、脳裏に浮かぶのが笑顔の表情なのは、この作品の影響もあるのかもしれません。

2 ドラマ性がこもった「目のかげり」

ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』第1話の冒頭で一瞬だけ、気になるシーンがありました。それは、洋服を買ってルンルンだった慶太が、元カノ(星蘭ひとみさん)がウェディングサロンにいる姿を目撃してしまうシーン。その瞬間だけ、慶太の表情は曇るのです。陽気な演技に挟まれた、ダウナーな演技。この切り替えも、三浦春馬さんの得意技かと思います。中盤では、父親(草刈正雄さん)との関係に悩む姿も描かれます。

たとえば、出世作の1つである映画『恋空』やドラマ『ブラッディ・マンデイ』も、孤独を抱えた、射るような目の演技が印象的でした。映画『銀魂2 掟は破るためにこそある』では、クールなインテリ武士に扮し、悪役としての魅力も開拓。柳楽優弥さんや吉沢亮さんと演技合戦を繰り広げています。ドラマ『わたしを離さないで』では、過酷な運命を背負った青年を繊細に演じ切りました。

このように、シリアスなキャラクターも多く演じてきた三浦春馬さんならではの“業(わざ)”が、あの一瞬の演技に集約されているように感じました。ちなみにドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』第1話では、その後に元カノとバーを訪れた慶太が、肩にもたれかかって上目遣いで「ダメだ、やっぱり好き」と誘う、破壊力抜群のシーンも用意されています。恐ろしくあざといのに、観る側も「これは勝てない……」と白旗を掲げさせられるのも、彼の目の演技の説得力があればこそでしょう。

ドラマ『ラスト・シンデレラ』でもセクシーな魅力を振りまいた三浦春馬さんですが、ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』では一味違った“子犬系”のテクニックで、魅了してくれます。

3 役の性格を、動きで伝える「空間掌握力」

ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』で三浦春馬さんが演じた慶太は天真爛漫な人物ですが、身体的な特徴としては、とにかくフットワークが軽い。会社でお菓子を配るときも、主人公の玲子(松岡茉優さん)たちとスキンシップを図ろうとする際も、後輩の純(北村匠海さん)を追いかけまわすシーンでも、機敏な動きで若々しさを見せつけます。冒頭から、服をサクサクと試着し、その後スキップする姿も描かれていますね。

ここも、役のキャラクター性を視聴者に伝えるためには非常に重要なポイントで、慶太が持つフレッシュさ、動き回る人物であることを視覚的に表現できているから、観るほうも「こういう人なんだ」と一発でわかる。そしてまた、無理なく動けているから、役と役者の間に齟齬が発生しない。三浦春馬さんのダンス経験等に裏打ちされた身体能力の高さはもちろん、“空間掌握力”も大きいように思います。

よくスポーツなどで「空間認識能力」といいますが、どこに行けばボールをキャッチできるかとか、フィールドやピッチの全体を俯瞰して、脳内でポジショニングを把握できるスキルが、名選手には備わっています。それと似た感覚が役者にも必要で、舞台や画面の中でどう動くか、それによって「どう受け取られるか」「どんな印象が生まれるか」まで見えている役者さんは、やはり身体のキレが違います。

そこに、空間を“掌握”する能力、つまりオーラや圧というものをどれくらい発揮してその場を支配するのか、或いは相手役に受け渡すのかなどのパーセンテージの調整を、役者は演出部とすり合わせながら行います。その際に一種の演出的な、“カメラの目”を持っていると、クオリティもスムーズさも格段に上がるのです。

ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』の慶太だったら、会社の中でいかに「異物感」を見せるか、そのうえで周囲(+視聴者)から嫌われないためにキュートさを出せるか、等が大事になってくるかと思います。それらを、表情や動作で見せなくてはいけません。

『キンキーブーツ』をはじめ、数々の舞台で活躍してきた三浦春馬さんは、「動く」ひとつをとっても非常に洗練されていて、流麗。迷いがなくすいすいと動き、場の空気を「持っていく」姿は、慶太の人格形成にも非常に有効だったのではないでしょうか。

4 優しく、愛される「声」

ミュージカルの出演や、音楽活動も精力的に行っていた三浦春馬さんは、声の演技も卓越した万能型の役者さん。ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』では、その才能を「好きにならせる」ことに全投しています。

前述した元カノとバーに行くシーンでは、「どうして俺じゃダメだったの?」と明るい声を出しつつも寂しさを漂わせ、「傷ついた……」「会いたかったから会えたんだもん。すごーく嬉しかったんだもん……」と「しょげる」+「甘える」の合わせ技を披露(これはズルい)。

父親にマンションを追い出された際には、玲子の母(南果歩さん)が民泊を行っていると聞いて転がり込み、戸惑う玲子に対してはおずおずとした声を出し、母には「ねーママ」と取り入り、一瞬でポジションを確立。人たらしな慶太の特長が、くるくると変わる声色に如実に発揮されています。

“清貧”を信条とする生真面目な玲子や、家が貧乏で苦労している純とのコントラストも効いていて、三浦春馬さんの安定した「置きに行く」声の演技が、松岡茉優さんや北村匠海さんにツッコませるパスになっているともいえます。

演技の掛け合いというのは攻めと受け、緩と急、ボケとツッコミといったように互いの呼吸が重要で、ふざける三浦春馬さんと制する松岡茉優さんの関係性が、とても心地よく響きます(ふたりの声の大きさ、発声の仕方の違いも、関係性を示すうえで実に興味深い。ぜひ注目してみてください)。

5 私たちに寄り添う、「隙」を残した演技

ここまでドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』で三浦春馬さんが演じた慶太を中心に書いてきましたが、このキャラクターには根本的に「根は善人」という部分が不可欠です。

個人的に三浦春馬さんの大好きな部分が、この「観てるだけで好きになる、いい人」をとても素敵に演じられるところ。容姿端麗なのにちょっと頼りなくて、隙があって(ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』だと「ほころび」と言われていますね)、なんだか一緒に歩きたくなる――そんな人間的な魅力が、彼の演技には自然と感じられます。

映画『アイネクライネナハトムジーク』では、10年付き合っている恋人(多部未華子さん)に愛想をつかされそうになってしまう朴訥な青年を、優しく演じました。映画『東京公園』での写真家志望の大学生、映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』で扮した心優しい医大生ボランティア等々、三浦春馬さんが見せる「隙」は、いつ観てもとても心地がいい。きっと、僕たちと歩幅を合わせてくれるからでしょう。

ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』でも、純に「あんたにはわかんないよ!」と怒りをぶつけられた際、一瞬真顔になったもののすぐなだめようとする姿が描かれました。北村匠海さんのヒリヒリする痛みを伴う演技を受け止め、包み込もうとする三浦春馬さんの優しい演技が、そこにありました。

本作では、「教育係」になった玲子から、慶太がお金の大切さを学び、人間的に成長していく姿が描かれるそう。どんどん、三浦春馬さんならではの「いい人」部分の割合が増えていくのかと思うと、期待が止まりません。

まとめ

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。書きながら三浦春馬さんの軌跡を振り返り、存在の大きさを改めて感じました。やっぱり彼は、素敵な人でした。

喪失感がずっと消えないのは、三浦春馬さんが唯一無二の名優だったから――その証明なのだと思います。今感じているこの痛みも、いつか愛おしく思えて、受け止められる日が来るのかもしれません。

今回ご紹介した作品はほんの一部で、まだまだ彼の魅力が詰まったものは多々あります。2021年には、特別ドラマ『太陽の子』の映画版の公開も控えています。きっとこの先も、三浦春馬さんは多くの方を魅了し、同時に偲ばれることと思います。

彼の演技に魅了された者の1人として、執筆の機会をいただけたこと、そしてまたご高覧いただけたこと、感謝申し上げます。

三浦春馬さんが歴代出演したドラマをTVログで評価

TVログでは三浦春馬さんが出演した歴代のドラマを評価することができます。

※ページの情報は2021年7月5日時点のものです。最新の配信状況は各サイトにてご確認ください。

SYO (映画ライター)

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイトの勤務を経て映画ライターに。「CINEMORE」「装苑」「CREA」等に寄稿。劇場公開映画の脚本・編集協力や映画祭の審査員等も務める。

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