2020年2月12日

【辛酸なめ子×徳尾浩司対談・前編】おっさんずラブin the sky制作裏話と最終回への思い

2018年、おっさんたちのピュアな恋をテーマにし、社会現象になったドラマ「おっさんずラブ」。2019年には舞台を不動産業界から航空業界に移した、新シリーズ「おっさんずラブ -in the sky-」が放送されました。

登場人物全員片思い…。純粋で不器用なおっさんたちの恋物語を見守っていた、コラムニスト辛酸なめ子さんもTVマガでコラムを執筆しました。そのコラムに「おっさんずラブ」シリーズの脚本を手掛けた徳尾浩司さんがSNSで反応したことがきっかけになり、ほろ酔い対談が実現!

「おっさんずラブ -in the sky-」の制作現場の裏側、名シーン誕生秘話、そして話題を呼んだ最終回についても話が及び…。“ラストフライト”から1ヶ月以上経った今、それが明らかに!

最初に決めていた、春田と黒澤の結末

辛酸:「おっさんずラブ -in the sky-」は、どのようにスタートしたんですか?

徳尾:「おっさんずラブ -in the sky-」は、執筆する前にプロデューサー陣と話し合い、結末を決めてから取りかかりました。結末を決めて書くのはこれまでのシリーズでも同様でしたが、今回は「おっさんずラブ」シリーズの集大成という気持ちもあり、春田創一(田中圭)と黒澤武蔵(吉田鋼太郎)がきちんと向き合うラストにしたいという気持ちがありました。

辛酸:舞台が不動産業界から航空業界になることも決まっていたのでしょうか?

徳尾:2018年の連ドラ版と同一キャストで作ることができるのは「劇場版 おっさんずラブ~LOVE or DEAD~」までと分かっていましたので、「おっさんずラブ -in the sky-」は、世界観を新たに別の物語を作ろうと、プロデューサー陣と様々な案を出し合いました。“春田が新任教師になって恋に落ちる学園モノ”などいろんな案が出た中から、航空業界が舞台に決まりました。私も空を題材にすることに憧れはありましたし!

辛酸:パイロットやCAの制服はかなり萌えでした!でももし「おっさんずラブ -in the school-」になっていたら、教師と生徒の禁断の物語ですね。

徳尾:確かに禁断! 少し見てみたい気もしますが(笑)

春田×成瀬エンドがあきらめきれないファンも

辛酸:「おっさんずラブ -in the sky-」ファンの間では春田と成瀬竜(千葉雄大)が似合いすぎていて、春田×成瀬エンドがあきらめきれないという声もあるようですが…。

徳尾:確かに二人の関係は僕も大好きです。春田は成瀬のことを想っていて、成瀬もその気持ちには気づいていたけれど、でも成瀬にはずっと想いを寄せる人が別にいた。春田と成瀬の関係が恋人として成就しなくとも、最終的には互いの気持ちを尊重し合い、何でも話しあえる素敵な関係になれたらと思って書いていました。「おっさんずラブ -in the sky-」では、春田は黒澤から受けてきた大きな愛情を受け止め、一歩進んでみたいという気持ちが芽生える結末になりました。

辛酸:キュンキュンときめく恋ではなく、愛のステージに突入したということでしょうか?

徳尾:黒澤が会社を去ると知ったことをきっかけに、春田の心の根底に流れていた愛が最後にあふれ出てきた。春田は成瀬に恋をしてきたので、急に他の誰かに恋をするという感じではないですよね。恋ではないかもしれないけど、失うことは考えられない存在。それが黒澤への想いでした。

辛酸:人間愛みたいな感じなんですかね。恋じゃない愛。黒澤が春田の複雑な気持ちを受け入れてくれるといいんですが…。

徳尾:確かに。「おっさんずラブ-in the sky-ゆく年くる年SP」の黒澤は、春田が年末実家に帰ることに不満がありそうでした(笑)。

辛酸:恋ではなく愛として矢印を整理すると、「敬愛」「友愛」「人間愛」「親愛」「同胞愛」になり、意外にも全員両思いかもしれません。(イラスト参照)

春田創一・黒澤武蔵・成瀬竜・四宮要。個性派キャラの作り方

辛酸:「おっさんずラブ」シリーズはいつも個性的で魅力あるキャラクター揃いですね。「おっさんずラブ -in the sky-」で新たに生まれた成瀬や四宮要(戸次重幸)のキャラクターはどんなふうに作り上げるんですか?

徳尾:プロデューサー陣と一緒に考え、キャラクターの大枠が決まったら、僕はいつも、演じる役者さんをとことんリサーチします。「四宮要を演じる戸次重幸さんはどんな人だろう」「成瀬竜役の千葉雄大さんがどんな声でどんなふうにしゃべるのか」をまず知りたくなって。千葉さんや戸次さんが出ているドラマやバラエティを徹底的にチェックして、台詞の語り口などの参考にします。

辛酸:戸次さんは北海道では“残念なイケメン”と言われていますがーー

徳尾:四宮は仕事ができてピアノも弾けるし、料理もうまいのにどこか残念。残念なポンコツ具合は、バラエティ番組で見せる戸次さんにも重なる部分がありますよね。千葉さんもクイズやバラエティなどを見て、冷静な中にも急にテンションが上がる瞬間とか、幅広い感情表現に注目していました。オリジナルドラマだからこそできることですが、そうして得られたキャラクターの性格や台詞は、役者さんも感情をのせて演じやすくなるのでは、と思っています。

前方後円墳はエロい?orエロくない?

辛酸:コラムでも書きましたが、「おっさんずラブ -in the sky-」でたくさんの恋愛が交錯していたので、成瀬の愛読書“前方後円墳”の形までがエロく見えてきました(笑)

徳尾:そう言われるとそう見えてきますよね(笑)。前方後円墳はエロいものとして考えていなかったので、笑わせていただきました。

辛酸:権威の象徴ではありますけどね。SNSでコラムを紹介していただきありがとうございます。前方後円墳きっかけでこの対談が実現してうれしいです。

文中に登場する前方後円墳コラム:【辛酸なめ子コラム】おっさんずラブin the sky・春田を誘ってる?と思わせる成瀬の”魔性”ぶり

「おっさんずラブ」プロデューサーとの運命的な再会

辛酸:「おっさんずラブ」プロデューサーの方とは以前からお仕事をされてたんですか?

徳尾:2016年の深夜ドラマ「おっさんずラブ」が初めてです。もともとプロデューサーの貴島彩理さんは大学の後輩でした。12年ほど前、当時大学生の彼女が僕の劇団のお手伝いに来てくれたのが最初の出会いです。それから時を経て、脚本家を探している時に僕の名前を思い出してくれたのが「おっさんずラブ」の始まりです。

辛酸:すごいご縁ですね。「おっさんずラブ」のアイデアは貴島さんが?

徳尾:はい。貴島さんが考えていたドラマ企画が3本あって、そのひとつに「おっさんずラブ」がありました。どれをやりたいかと聞かれたので、おっさん同士が恋をする「おっさんずラブ」がいいな、と答えたのを覚えています。そしてできあがったのが2016年の深夜ドラマです。

辛酸:そのあと 2018年の連続ドラマ「おっさんずラブ」は社会現象になって。感慨深いですね。ちなみに企画案として「おばさんずラブ」はなしですか?

徳尾:わあ、どうでしょうね!(笑)

辛酸:かたせ梨乃さんを吉田鋼太郎さんみたいな立ち位置にして。熟女ならではの包容力満点で(笑)

徳尾:キャスティングが絶妙ですね(笑)

辛酸:ドラマの舞台は老舗旅館とか。いろいろ乱れそうな感じがします(笑)

「おっさんずラブ」メソッドはBLより少女漫画

辛酸:「おっさんずラブ」シリーズを書くにあたってBLマンガや小説を読んで参考にしましたか?

徳尾:BLは読んだことがないんです。だからBLの世界が全然わからなくて。でも漫画は好きで、高校時代は少女漫画も読んでいました。

辛酸:え?どんな少女漫画を読んでいたんですか?

徳尾:「ママレード・ボーイ」とか(笑)。りぼんやマーガレット系が好きでした。だから、「おっさんずラブ」のメソッドはBLより少女漫画に近いのではないかと思います。

辛酸:だから、ラブシーンが適度な刺激なのかもしれないですね。そこまで過激じゃない!

徳尾:少女漫画の恋愛をおっさん同士で繰り広げているので、どこか奥ゆかしさを感じますよね。

台本に書かなくても伝わる…監督と役者との絶対的な信頼関係

辛酸:「おっさんずラブ -in the sky-」をメインで撮影した監督・瑠東東一郎さんとは長いお付き合いなんですか?

徳尾:瑠東さんとは「おっさんずラブ」シリーズの前から一緒にお仕事をする機会が多かったです。だから台本にこれを書いたら瑠東さんがこんな風に仕上げてくれるという期待があります。書いているときに現場の流れが想像できるので、あえて台本で細かく指示せず、監督や役者さんに託すことも多くあります。「おっさんずラブ」の制作チームはそれが強みでもあります。

辛酸:監督や役者さんを信じられないと託すことはできませんよね?

徳尾:「おっさんずラブ」は、現場スタッフと役者さんとの間に厚い信頼関係ができていたようです。瑠東さんはその場で起こる芝居の生理を大事にして撮るタイプ(だと思ってます)。だから役者さんも、最低限の段取りはあれど、伸び伸びと演じられる環境になっている。そこが素晴らしいところではないでしょうか。

キャラクターを通じて、演じる役者のリアルな感情が溢れる

辛酸:その撮影法はめずらしい手法なんですか?

徳尾:瑠東さんが嘘のない生(なま)っぽい演技を要求するのは、もともと一発勝負が基本の、バラエティ番組のディレクターだったからかもしれません。「おっさんずラブ」において、現場で生まれるリアルな感情をくみ取るという手法は、山本大輔監督やYuki Saito監督とも共有されていたんだと思います。

辛酸:春田、黒澤、成瀬、四宮。役者さんたちのリアクションは本物っぽいと思っていました。本当にうれしそうに笑っていたり、リアルに泣いていたり…そういえば、男泣きのシーンも多いような?

徳尾:役者さんたちは本当に泣いてますよね。ミステリードラマのような“これを言わないと話が破綻しちゃう”というドラマではないし、原作ありきの決まったキャラクターもない。一人一人が自分の役を思いきり演じてくれていたことが大きいと思います。いかに自分たちのセリフで目の前の相手の心を動かせるのか………。そういう芝居の真剣勝負が、画面を通して視聴者の皆さまに伝わったのではないでしょうか。

台本の世界観の中で…役者が紡ぐオリジナルストーリー

辛酸:「おっさんずラブ」シリーズはアドリブが多いと言われていますが?

徳尾:瑠東さんはすぐにカットをかけないと聞いたことがあります。台本上はそこで台詞が終わっていても役者さんは役を生きているから、その後に続くであろう台詞が生み出されていくのだと思います。

辛酸:憑依していると、そんなことができるんですね。すごい。

徳尾:特に田中圭さんや吉田鋼太郎さんのような上手な役者さんになると予定通りのセリフが終わっても次々と言葉が出てくる。それが「おっさんずラブ」のアドリブの面白いところです。

辛酸:世界観を大切にした上で気持ちを乗せて演じるから、違和感のないオリジナルストーリーが生まれるんですね。

続編に続く

「おっさんずラブ -in the sky-」TVログのみんなの感想は?

この口コミの続きを読む

この口コミの続きを読む

 

辛酸なめ子
漫画家・コラムニスト 武蔵野美術大学短期大学部デザイン学科卒。雑誌連載、執筆活動の合間を縫ってテレビ出演も。
【心に残っているドラマ】「スワンの涙」「高校教師」「ポケベルが鳴らなくて」

徳尾浩司
脚本家。慶応義塾大学卒業。劇団とくお組主宰。青春群像劇やコメディ作品が多い。代表作は「おっさんずラブ」。
【心に残っているドラマ】「振り返れば奴がいる」「彼女たちの時代」「それが答えだ」

文:佐藤史恵 写真:永禮 賢 

撮影協力:Pipal https://www.pipal.co.jp/